人を自殺させるだけの簡単なお仕事です

655 :名も無き被検体774号+ :2012/08/09(木) 10:42:06.52 ID:GGIh9Ptr0
青空は指折り数えます
「んーと、メリーゴーランド、観覧車、
オルゴール、時計、ひまわり、天体」

そして、「ですよね?」という目をこちらに向けます

「そうだ」と僕はうなずきます

「それと、ゆっくり回転する私」

「ああ。別に回転しなくてもいいけどな」

青空は僕の目を見たまま固まります
「おー……不意打ちですね」

「こういうのは逆に困るだろう?」

「困ってます。照れてます」
まわんなくてよかったのかー、と青空はひとりごちます

656 :名も無き被検体774号+ :2012/08/09(木) 10:51:44.02 ID:GGIh9Ptr0
「ひまわりは達成したので、次にいきましょう」

「全部回る気なのか?」と僕は訊きます

「そうです。ゆっくり回るものを、
ひとつずつ、ゆっくり回りましょう」

それは確かに、理想的な過ごし方でした
「お前はそれでいいのか?」と僕はたずねます

「それがいいんですよ。好きなものばかり見て、
くもりぞらさんは生に執着しちゃえばいいんです。
死ぬのいやだーって私に泣き付けばいいんです」

「なるほどな」

658 :名も無き被検体774号+ :2012/08/09(木) 11:00:23.60 ID:GGIh9Ptr0
からかうように、青空が軽く体当たりしてきます
「何だか、くもりぞらさんらしくないですね。
決定権は、いつでもあなたにあるんですよ?
したいと思ったことをすればいいじゃないですか」

「いや。もう俺も、あのうさんくさい力は失ったんだ。
もう青空を操ることはできない。良かったな」

「そんなこと問題になりませんよ、私、
あなたの言いなりになるの、癖になっちゃってますから」

「そうか」僕は納得します、「まわれ」

青空はその場でくるくる回りはじめます

701 :1 :2012/08/10(金) 20:03:21.21 ID:Z/us+aeL0
二時間ほどで、青空の言うデパートに到着します
屋上遊園地などという時代錯誤的なものが
未だ存在していたことに驚きました
外装も城みたいで、大時代的です

「未だっていうか、新しく出来たんですけどね。
時代錯誤がむしろ格好良いみたいな
最近の風潮に合わせて作られたらしいです」

ここにはくもりぞらさんの好きなものが
いっぱいあるんです、と青空は言います

地下駐車場に車を停めると、店内に入ります
天井は呆れるほど高く、冷房ががんがんきいています
自分が縮んだような気になる場所でした
まだ夢が売っていた時代のデパートみたいです

702 :1 :2012/08/10(金) 20:09:58.31 ID:Z/us+aeL0
良い雰囲気の雑貨屋を見かけると
青空は僕を置いて中に入っていきました
ついていこうとすると、追い払われます

「くもりぞらさんはメロンでも見ててください」

青空なりにやりたいことがあるようです
仕方がないのであたりをうろつきます

デパートに来るのは久しぶりでした
おかげで、子供の頃の記憶が
そこにそのまま残っている気がしました
もちろんこの場所を訪れたことが
あるわけではないのですが

703 :1 :2012/08/10(金) 20:14:37.07 ID:Z/us+aeL0
エントランス付近のベンチに座って青空を待ちます
行き交う人々は、みんな幸せそうに見えます
実際、ここを訪れるような人は、ある程度裕福で、
「余計なこと」に金を割く余裕のある人たちです

子連れの客が多く、どこの子供も、
絵本の中から出てきたような感じです
立派な服、整った顔立ち、綺麗な体つき

彼らの将来を考えて、自分の現状と比較し、
僕は勝手に落胆して溜息をつきます

704 :1 :2012/08/10(金) 20:19:48.10 ID:Z/us+aeL0
いつの間にか青空が脇に立っています
「さ、いきましょう」と青空は言います
何をしていたのかは聞かずにおきます

エレベーターが混んでいる様子だったので
いつも見るものより数段長いエスカレーターに乗ると
青空は壁に貼られた注意書きを指差しました

「黄色い線の内側では手を繋いでください、ですって」

「お子様と手を繋いで黄色い線の内側に、な」

「似たようなものです。私、年下ですから。
ほら、黄色い線の内側ですよ」青空は手を差し出します

僕はその白くて細い指をそっと握ります
すかさず青空がぎゅっと握り返してきます

706 :1 :2012/08/10(金) 20:28:38.01 ID:Z/us+aeL0
「あれみたいですね、恋人みたいです」
僕の顔を見上げて青空が笑みを浮かべます

「これだけじゃあ兄妹と似たようなもんだ」

「傍から見ても、そう見えますかね?」

「ああ。どう見ても仲の良い兄妹だ」

「これでも?」青空は自分の指を
僕の指の間に入れて、握り直します

「おいおい」と言いつつも、
僕はその手をしっかり握り返します

707 :1 :2012/08/10(金) 20:35:51.94 ID:Z/us+aeL0
僕らが屋上遊園地に到着した途端
場内に大きな音楽が流れ始めます

真上にある時計台からの音のようです

「からくり時計ですね」と青空が言います
「10万人目の来場者になったかと思いました」

「雨だ」と僕は手を差し出して言います
今はまだ弱いですが、徐々に強くなる類の降り方です

「雨ですね。じゃ、さっさと乗っちゃいましょう」
メリーゴーランドと観覧車を指差して青空は言います

濡れた石畳が遊具のカラフルな光を反射して
屋上はクリスマスみたいなことになっています

708 :1 :2012/08/10(金) 20:40:58.97 ID:Z/us+aeL0
メリーゴーランドは、よくある子供騙しの
チープなものではなく、凝った造形のものでした

念のために僕は言っておきます
「俺は見るのが好きなわけで、
別に乗りたいわけじゃないんだよ」

しかし青空は二人分のチケットを購入し、
結局僕たちは馬車に向かい合って座ります

合図が鳴り、馬車が動き出します
青空は身を乗り出して、僕に言います

「『とても酷いやり方』でいつか殺す、
くもりぞらさんはそう言ったわけですけど」

「言ったなあ、そういえば」

「どんなやり方なんです?」

709 :1 :2012/08/10(金) 20:46:01.84 ID:Z/us+aeL0
少し考えてから、僕は答えます
「そうだな。まず……簡単に殺しはしない。
時間をたっぷりかけて、じわじわ殺すんだ。
死ぬときに未練や後悔が残るように、
できるだけ生に対する執着が増すような、
そういう暮らしを、長期に渡って送らせる」

「時間をたっぷりって、いつごろ殺すんです?」

「幸福慣れするのに時間がかかりそうな
相手だからな、慎重にいく必要がある。
十年、二十年、場合によっては、百年でも」

「私は時間かかりますよー」、青空が得意気に言います

710 :1 :2012/08/10(金) 20:55:30.22 ID:Z/us+aeL0
想像通り、雨は次第に強くなっていきます
屋上の客はどんどん減っていきます

観覧車に乗り込み、半分くらいの高さまで
昇ったところで、青空はぽつりと言いました
「百年かけて、殺されたかったなあ」

「俺もそうするつもりでいたさ」

「でも、難しそうですね」

「今となっては、明日も知れぬ身だからな」

「なんとかして、逃げられないものですかね?」

「俺もそれをずっと考えてる。でも向こうは、
その気になりさえすれば、何でも出来てしまう」

「うーん……」と青空は俯いて考えます

712 :1 :2012/08/10(金) 21:00:13.21 ID:Z/us+aeL0
「こんなのはどうでしょう?」
観覧車が三分の二くらいの高さまで
来たところで、青空は言います

「くもりぞらさん、標的を自殺させる上で、
定められた手順を言ってみてください」

僕は頭の中の文章を読み上げます、

?その人の体をのっとる
?辛そうに振る舞う
?身の回りを綺麗にする
?遺書を書く
?死ぬ

「そう。そして、一つ目を阻止することは困難です。
でも、二つ目、三つ目、四つ目を、
全身全霊で邪魔したらどうなるんでしょう?」

714 :1 :2012/08/10(金) 21:49:07.12 ID:Z/us+aeL0
「たとえばですね、?を妨害するとして、
自殺する理由が見当たらないどころか、
絶対に自殺するわけがないって思われるくらい、
幸せになっちゃえばいいんじゃないでしょうか」

「まあ確かに、向こうには、周りに自然な自殺だと
思わせなければらない義務があるからな」

「そうです。くもりぞらさんの幸せはなんですか?」

「今まさにってところだな。青空といること」

青空は頬をかいて目を逸らします
「えーと……いや、すごく嬉しいんですけど、
こんなことで満足しないでください。
まだまだこれからじゃないですか。
こんな陳腐なことは言いたくないんですが、
生きてればもっと楽しいことが沢山ありますよ」

716 :1 :2012/08/10(金) 22:07:12.93 ID:Z/us+aeL0
僕らの観覧車が一番高くなる瞬間が訪れます
その高さからは、雨に濡れた街が一望できます

窓にはりつくように下を見ながら、青空は言います
「そう。私はくもりぞらさんと同じ大学へ行くんですよ。
がんばって勉強して、くもりぞらさんの後輩になるんです」

「だいぶ頑張らないといけないな」僕は苦笑いします

「大丈夫ですよ。くもりぞらさんが教えてくれますから。
そうしてまた、一緒にカフェに行って勉強したり、
映画を観に行ったり、お酒を飲んだりするんです。

毎年、私たちに殺された人たちのお墓参りにいって、
あんまり派手な生き方はしないようにして、けれども、
必要以上に卑屈にはならず、強かに生きていくんです。
そう、明るい日陰で生きていくんですよ。

そのときは、今までみたいな話し方をやめて、
お互いとっても素直に、昔のことを話すんです。たとえば――」

726 :1 :2012/08/10(金) 22:51:02.70 ID:Z/us+aeL0
「たとえば、実は俺が、青空のことを
好きにならないように必死に努力したが、
結局は無駄に終わったこととか」

青空は目を丸くして僕の顔を見ます

「そういうことだろ?」と僕は念を押します

「……そうです。そういうことを話すんです。
課外が終わって会いに行ったとき、
私がわざわざ髪を切って、お洒落をして、
実はとってもはしゃいでいたこととか」

「アパートに青空があらわれたとき、
どうしてか、妙にほっとしてしまったこととか」

「足の心配をしてくれて抱っこしてもらったとき、
本当は皆に見せて回りたいくらいだったこととか」

「酔っ払った青空がとんでもなく可愛かったこととか」

「キスの件は、わざと勘違いしたふりをしたこととか」

727 :1 :2012/08/10(金) 23:05:07.70 ID:Z/us+aeL0
びしょ濡れで店内に戻った僕らは
無闇にお互いを叩いて笑います

思えば、この夏は、僕も青空も
しょっちゅうずぶ濡れになりました
それでも、雨に濡れるのは初めてでした

あたたかいコーヒーを飲み終える頃
デパートに閉店を知らせる音楽が流れ始めます

外に出た僕らは、夜の雨の街を、
傘も差さずに歩きつづけます
青空は「雨にぬれても」を口ずさみます

見込みのない二人は、いつまでも
手遅れの幸せについて語ります

728 :1 :2012/08/10(金) 23:12:45.41 ID:Z/us+aeL0
雨はかなり弱まってきていました
青空に言われて空を見上げると
ぼんやりした月が浮かんでいました

「残念ながら、星は見えませんけど」

青空は鞄から何かを取りだします
僕には、梱包を剥がす前から
それが何なのか分かります

「もちろん、オルゴールです」
青空はそれを僕に手渡します
グランドピアノの形を模した
シリンダーオルゴールです

「これで、くもりぞらさんの好きなものは、
ひとまず全部そろいましたね」

曲を流してみてください、と青空は言います

729 :1 :2012/08/10(金) 23:22:11.92 ID:Z/us+aeL0
それは本当に突然のことでした

ぜんまいを巻いている最中
不意にふわりと、僕の心の曇りが晴れます

僕を直接殺そうとしていた意思とは別の
もっと上の存在からの操作から逃れ、
自由になることができたのでしょう

途端、押さえつけられ、弱められていた
僕の人間的感覚が開放されます

目の前の少女が、突然、
かみさまみたいに見えてきます

ああ、そうだったのか、と僕は思い、
何も言わず、僕は青空を抱き締めます
青空は「うわっ」と驚きつつも
すぐに抱きしめ返してくれます

そうだよな、と僕は思います
これくらいの気持ちが溢れていて当然だったんだ

730 :1 :2012/08/10(金) 23:30:33.32 ID:Z/us+aeL0
どうにかして青空を、この糞みたいな
くだらない繰り返しから抜け出させてあげよう、

こんな卑屈で先のない幸せにすがらなくとも
もっと心の底から笑えるようにしてあげよう、

オルゴールが終わるころには、
僕はそう決意していました

でも結局、その日が僕らにとって
最後の日となりました

731 :1 :2012/08/10(金) 23:34:20.50 ID:Z/us+aeL0
さて、

732 :1 :2012/08/10(金) 23:35:07.29 ID:Z/us+aeL0
急に感じるかもしれませんが、
これでお話は大体お終いです

733 :名も無き被検体774号+ :2012/08/10(金) 23:35:26.32 ID:PM6G4KQD0
mjd!?

734 :1 :2012/08/10(金) 23:35:47.64 ID:Z/us+aeL0
八月のよく晴れた日に出会ったのは、
神経質そうな目をした女の子でした

735 :1 :2012/08/10(金) 23:36:24.99 ID:Z/us+aeL0
華奢で色白で、視線は常に下を向いていて、
笑い方がとっても控えめな女の子でした

736 :1 :2012/08/10(金) 23:37:33.83 ID:Z/us+aeL0
最後に交わした会話は、僕と青空だけの秘密です。

737 :1 :2012/08/10(金) 23:38:10.95 ID:Z/us+aeL0
おしまい。

739 :名も無き被検体774号+ :2012/08/10(金) 23:39:55.42 ID:rIb3sVvH0
えっ

740 :名も無き被検体774号+ :2012/08/10(金) 23:40:36.54 ID:/S9cUOOe0
おつ

面白かったよ!

738 :名も無き被検体774号+ :2012/08/10(金) 23:39:47.80 ID:ZVmED/nAO
わー!終わりなの?
オルゴールから流れた曲はなんだったのかな?ちょっと気になる

748 :1 :2012/08/10(金) 23:59:54.80 ID:Z/us+aeL0
>>738
よっぽど書こうかと思ったんですが、
チキンなので書かずにおきました!

741 :名も無き被検体774号+ :2012/08/10(金) 23:42:39.41 ID:CxNq8CeT0
面白かった
久方ぶりにいい話読めたよ
GJ

742 :1 :2012/08/10(金) 23:44:56.98 ID:Z/us+aeL0
終わった! というわけで、ネタばらし+宣伝。
何人か気づいている方もいたようですが、
作者は「げんふうけい」の俺です。
http://fafoo.web.fc2.com/other.htm
保守してくれた人、感想くれたりした人、ありがとう!

743 :名も無き被検体774号+ :2012/08/10(金) 23:48:25.13 ID:2hTIQpIw0
おもしろかったよ
お疲れ様

756 :名も無き被検体774号+ :2012/08/11(土) 00:20:35.25 ID:V7M1Ce6P0
なんてところで終わりやがる…

乙!

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46:rDJphAwO
やはりげんふうけいか
2012-11-24 16:27:12

47:dltpa5UO
>>42
だとしたらすごい
なんかよくわかんないけどすごい
2012-11-25 02:04:08

48:ne0guUsS
解釈は※34からだけどくもりぞらが青空になったからくもりぞらと青空=僕らの話は終わったんだと思った
2017-06-20 20:47:59

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