人を自殺させるだけの簡単なお仕事です

503 :名も無き被検体774号+ :2012/08/05(日) 10:02:03.22 ID:P3gLkbO30
青空の寝息を聞いているとこちらも眠くなってきたので、
寝ている青空の頭をくしゃくしゃやった後、ソファで眠りました

目を覚ますと、体が大分楽になっていました
僕は早口言葉をためします

「とてちてた、とてちて、とてちて、とてちてた 」

どうやらきちんと喋れるまで回復したようです
冷蔵庫からきんきんに冷えたビール缶を取り出し
へそをだして寝ている青空の頬に当てます
「つめたい」と言って青空は目を覚まします

504 :名も無き被検体774号+ :2012/08/05(日) 10:11:17.27 ID:P3gLkbO30
僕は言います、「いつまで人のベッドで寝てる?」

「くもりぞらさんが喋ったー」と青空は喜びます

ビールを飲みながら「そろそろ帰れ」と言うと、
青空は眠たげな目で「いやです」と言い、
その後時計を見て「うわあ」と驚いていました

青空はベッドの上に三角座りして、
それからしばらく黙り込みました
現状について思いを巡らしているようでした

505 :名も無き被検体774号+ :2012/08/05(日) 10:19:07.49 ID:P3gLkbO30
青空はベッドの上に正座して言います
「あの……さっきはべたべたしてすみません」

「おお、ちゃんと覚えてるんだな」

「あ、そっか。忘れてることにしとけばよかった」
青空は正座したまま横に倒れます
「くもりぞらさん、私もお酒欲しいです」

「そろそろ帰れ。時間が時間だ」

「時間が時間で時間ですね」
青空はそう言って一人で笑います

506 :名も無き被検体774号+ :2012/08/05(日) 10:30:13.53 ID:P3gLkbO30
「しかし参ったな」と僕は言います

「お前が嫌がらせされるのが好きとなると、
嫌がらせをしないことによる嫌がらせさえも
結果的に嫌がらせになってしまって、
最終的には喜ばせてしまうことになる」

「難しいことは考えずに、普通に
いやがらせしてくれればいいんです」

「なるほど」と僕は言い、ベッドの青空の
膝の下と首の後ろに手を差し入れ
ひょいと持ち上げて玄関まで運びました
その軽さに、僕はちょっと驚きます

507 :名も無き被検体774号+ :2012/08/05(日) 10:35:22.74 ID:P3gLkbO30
そのままドアを開けて外に出ると
「もういいですよ」と青空が言います
だからどうしたという感じです
僕はそのまま歩きつづけます

青空は僕を見上げて言います
「はいはい、そういう嫌がらせですか」

「屈辱的な仕打ちというやつだ」

「私の足の状態に気づいてたんですか?」

「さあな」

「くもりぞらさんは発声器官ですけど、
私は足の方をやられたんですよね」

508 :名も無き被検体774号+ :2012/08/05(日) 10:41:13.22 ID:P3gLkbO30
「というわけは、抵抗したんだな?」

「ええ。だって私、殺されるなら、
くもりぞらさんにって決めてますし」

「次に俺が何を言うか分かるだろう?」

「『じゃあ殺してやらない』、ですよね。
だったらせめて、私はくもりぞらさんより先に、
ここからいなくなりたいなあ」

「そうか。じゃあ俺は、俺より先にお前を死なせない」

「じゃあ私は、私より先にくもりぞらさんを死なせない」

そういうやり取りを交わした後で、
僕はちょっと恥ずかしくなってきます
これじゃあまるで永遠を誓い合ってるみたいじゃないか

509 :名も無き被検体774号+ :2012/08/05(日) 10:43:59.50 ID:P3gLkbO30
もちろん、物事はそんなに
思い通りにいくものではありません

それが気休めに過ぎないことは
お互いにわかっているし、経験上、
死ぬということがそんなに優しくて
綺麗なものではないことを知っています

515 :名も無き被検体774号+ :2012/08/05(日) 13:20:31.83 ID:/h8JKBnO0
げんふうけい節全開だな
荒んだ和みの極地というか

519 :名も無き被検体774号+ :2012/08/05(日) 20:28:02.62 ID:5wV6syAf0
青空たんカワユスww

是非完結させてもらおうではないか

541 :名も無き被検体774号+ :2012/08/06(月) 22:46:44.39 ID:49/DQkd80
翌日、青空をいつもの公園に呼び出そうとした僕は
人の体をのっとる力を失ったことに気付きました

ですが、結局青空は公園に来ました

「どうせ呼ばれるだろうと思ったから、
こっちから来てやったんです」
青空はしたり顔でそう言います

僕は「やるじゃないか」と言って
青空の頭を撫でてやりました

青空は頭を両手で押さえて
「子供扱いしないでください」とむくれます

542 :名も無き被検体774号+ :2012/08/06(月) 22:49:18.82 ID:piJe80+e0
知ってた
そして待ってた

543 :名も無き被検体774号+ :2012/08/06(月) 22:49:41.83 ID:tdOU0srK0
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!

544 :名も無き被検体774号+ :2012/08/06(月) 22:52:23.11 ID:wzdVfCq+0
ktkr

545 :名も無き被検体774号+ :2012/08/06(月) 22:54:30.79 ID:49/DQkd80
「お前はいつも通り過ごして死にたいらしいな」

「だって、せっかく死ぬ覚悟が固まってても、
ふとした拍子に幸せな思いをしちゃったら、
苦労して固めた覚悟が崩れちゃいますからね。

ただでさえ、命が薄らいできたせいか、
異様に感動しやすくなっちゃってるんです。
気をつけないとすぐ幸せになっちゃいますよ。
感傷的になるなのは避けたいんです」

そこで僕は、センチメンタル・ジャーニーを提案します
どうにかして青空を感傷的にしてやろうというわけです

546 : 忍法帖【Lv=33,xxxPT】 :2012/08/06(月) 23:01:47.35 ID:Ry3j6b9e0
ほす
楽しみにしてます

547 :名も無き被検体774号+ :2012/08/06(月) 23:07:33.15 ID:49/DQkd80
青空は窓からの風を心地よさそうに浴びて
小さな声で何かを歌っていました
こっちには聞こえていないと思っているのでしょう

「ままー じゃすきーらめーん」

それは僕もよく知っている曲でした
運転席でハンドルを握る僕は
一緒に唄おうとしたのですが
やっぱりやめておくことにしました

青空の声をきいていたいと思ったのです
趣味が酒と音楽だけというだけあって
さすがに歌い方というのを心得ていました
選曲も中々状況にマッチしています

548 :名も無き被検体774号+ :2012/08/06(月) 23:14:31.53 ID:49/DQkd80
屋台でホットドッグとクレープを注文し
ベンチに並んで座ってそれらを食べます

ひどく古いコカコーラの赤いベンチで
塗装は半分以上剥げてしまっています

青空はサンダルを脱いで横向きに座り
素足を僕の膝の上に乗っけてきます

「ずっと思ってたんですけど、
私、くもりぞらさんについて、
ほとんど何も知らないんですよね」

553 :名も無き被検体774号+ :2012/08/06(月) 23:28:34.41 ID:49/DQkd80
「たとえば、私は音楽が好きです。
それはくもりぞらさんも知ってるでしょう?」

「ああ。見た。悪くない趣味だと思う」

「くもりぞらさんに褒められた!」

「こういう問題に関してはフェアなんだ、俺は」

「……ええと、それで、くもりぞらさんは、
何か好きなこととかあるんですか?」

「それは、うんと好きなもののことか?
それとも、ただ好きなもののことか?」

「うんと好きなもの」青空は僕の発言の
意図が分かったらしく、にんまり笑います

554 :名も無き被検体774号+ :2012/08/06(月) 23:32:46.11 ID:49/DQkd80
「俺は、ゆっくり回転する物が好きだ」

「……うーん、説明を求めます」

「メリーゴーランドとか、観覧車とか、
オルゴールとか、時計とか、ひまわりとか」

「地球とか、月とか、太陽とか?」

「ああ。そうだな。天体も好きだ」

「私と、どっちが好きですか?」

「……ん?」

「ゆっくり回転する物と私」

「前者だな」

「……じゃあ、ゆっくり回転する私」
青空は立ち上がり、ゆっくり回りはじめます

558 :名も無き被検体774号+ :2012/08/06(月) 23:46:23.49 ID:49/DQkd80
僕はゆっくり回転する物が好きなので
ベンチから身を乗り出して青空を捕まえ、
再びベンチに座り、膝の上に青空をおいて
後ろから両手をまわして確保します

ゆっくり回転する物が好きなわけであって
青空と密着していると異様なほど安心することに
最近気づいたというわけではありません

「こんなに効果あると思いませんでした……」
青空はちょっと動揺した様子です

559 :名も無き被検体774号+ :2012/08/06(月) 23:56:47.82 ID:49/DQkd80
自販機で買ったポカリスエットを
保冷剤代わりにして体を冷やしながら
僕と青空は駐車場に戻りました

晴れ渡った空の向こうには、積乱雲が見えました
街路樹に蝉がとまって鳴いています
この蝉も僕たちも、余命は同じくらいでしょう

どこかの家から線香の匂いが漂ってきます
よく日焼けした子供たちが、釣竿を持って
駆け抜けていき、それに合わせて風鈴が揺れます

560 :名も無き被検体774号+ :2012/08/07(火) 00:10:28.18 ID:sZcwAnKT0
「このまま逃げちゃいましょうか」

「どこに行けば、あの得体のしれない
超能力から逃れられるっていうんだ?」

「わかんないけど、地球の反対側とかなら、
ちょっと難しそうじゃないですか?」

「それで、その後、どうするんだ?」

「小川が流れてたりするとこなんかに住むんです。
……そうでなきゃ、銀行強盗でもして歩きます?」

「で、八十七発の弾丸を受けて死ぬのか?」

「そうです。ボニー&クライドするんです」

「どっちも、あんまり現実的じゃあないな」

「知ってますよ。冗談です」

625 :名も無き被検体774号+ :2012/08/08(水) 22:42:59.20 ID:p/vEXlSh0
当てもなく車を走らせました
途中で寄ったCDショップで青空が買った
「ラバーソウル」がカーステレオから流れています

山道に入ると、急カーブが多くなり、
貧弱な青空は左カーブに入るたびに
「わー」と運転席に倒れ込んできます
いつの間にかベルトを外しているのです

一度は間違えて、右カーブなのに
運転席方向に倒れてきました

「さて」と青空が切り出します
「いまから、身勝手な話をします」

626 :名も無き被検体774号+ :2012/08/08(水) 22:47:08.41 ID:p/vEXlSh0
「私、これまでに、八人殺したじゃないですか。
そのことを後悔してはいるんです。

今思うと、あの人たちが具体的に
どんな悪さをしたのか私は知らないし、
仮に悪い人たちだったとしても、
私個人は全く恨みもなかったんです。

なんであんなことしちゃったんでしょう?
あの中にくもりぞらさんがいたとしても、
当時の私だったら殺しちゃったと思います。
そう考えると、やっぱりとんでもないことを
やらかしちゃったんでしょうね、私は。

……でもですね、九人目でやめて以降、
私の身に起きた一連の出来事については、
ひそかに、気に入ってさえいるんです。
それと引き換えにこれから起こる、
さみしい事態も考慮した上で、ですよ」

627 :名も無き被検体774号+ :2012/08/08(水) 22:54:26.33 ID:p/vEXlSh0
「そのことについてなんだが――」
僕は以前思いついた仮説を青空に話します

「なるほど」と青空は言います
「確かに私も、疑問には思ってたんですよ。
そもそもどうして、標的に関する情報が
自動的に頭に浮かんでくるのか」

「他にどうとでも利用できそうなその能力を、
標的の殺害だけに注ぎ込もうとしてしまうのか」

「そうそう。今考えると、妙ですよね」

630 :名も無き被検体774号+ :2012/08/08(水) 23:02:12.45 ID:p/vEXlSh0
「でも」青空はきっぱり言います、
「証拠はどこにもないんでしょう?
私たちを操ってる人がいるっていう」

「そうだけどな、そんなこと言い出たら、
極端な話、俺たちの他殺にも証拠なんてない。
俺たちは自殺させたと思い込んでるだけで、
実際は、彼らがきちんと彼らの意志で
そうしていたのかもしれないんだ」

「そして何より」と僕は言います、
「どんな理由であれ、青空が自分の意志で
人を殺したりするとは思えないんだ」

「八人殺しました」と青空は言います

「ナイフは人を殺さない。ナイフで人を殺すんだ。
どっかの誰かが、青空で人を殺したのさ」

631 :名も無き被検体774号+ :2012/08/08(水) 23:08:23.06 ID:p/vEXlSh0
「都合よく考えようぜ」と僕は続けます、
「俺たちはおそらく、人を殺したっていうことから
気を逸らそうとするあまり、逆に必要以上に
責任を負おうとしてしまっていた部分がある。

だが、特にならない殺人をする理由がどこにあった?
いくらでも自分に利益をもたらせられるはずの
この能力を、どうして活用しようとしなかった?

おそらくこの能力には制限がかかっていたんだ。
俺たちが向こうの意にそぐわない行動をしないように」

632 :名も無き被検体774号+ :2012/08/08(水) 23:13:36.55 ID:p/vEXlSh0
「うーん、もしそうだとしたら、嬉しいんですけど」
青空はうつむいて、少し間を置きます
「でも、なんにせよ私は、だめですよ。
八人殺したおかげでくもりぞらさんに会えた、
あーよかったって考えてるようなやつですから」

「違う、八人で止めたから俺と会えたんだ」

青空は困ったような笑顔を浮かべます
「確かに、決してないとは言い切れない話です。
ですが、それでも犯人が確定するまでは、
ひとまず私がその責任を負うべきだと思うんですよ」

「素晴らしい心がけだな。犯人が分かるまでは
ひとまず殺されておこうってわけか?」

「だって、しかたないじゃないですか」

653 :名も無き被検体774号+ :2012/08/09(木) 10:27:56.04 ID:GGIh9Ptr0
「ひだり」と青空が突然言います
言われなくても僕だって気付いています

車を停めて、外に出ます
視界の上半分が青い空と白い雲なのに対し、
下半分は黄色と緑で埋め尽くされています
大きな白い風車が、いくつか回っています

「ひまわりもあるし、風車も回ってるし、
とってもくもりぞらさん的空間ですね」
青空が僕の隣で言います

654 :名も無き被検体774号+ :2012/08/09(木) 10:32:56.91 ID:GGIh9Ptr0
こんな光景を、昔見たことがあるような気がしました

制服の女の子とスーツの男
妙にちぐはぐな印象を与える二人が
並んでひまわり畑を見下ろしているのです

もちろん実際はそんなものを見たことはなく
たぶん単純に、その光景があまりにも
僕の好みに適合していただけなのでしょう