人を自殺させるだけの簡単なお仕事です

331 :名も無き被検体774号+ :2012/07/30(月) 20:58:39.66 ID:e6Xcvivh0
「そこなんだよ。どうして向こうは追撃してこない?
今なんか、頭を下げるだけで溺死させられるのに」

「抵抗されて、びっくりしてるんじゃないですか?
経験のあるくもりぞらさんに聞きますけど、
操作に逆らわれたとき、どんなことを思いました?」

僕は少し考えてから、答えます
「お前の場合、それ以前に色々とイレギュラーだったから、
抵抗されても不自然に感じなかったんだよな」

332 :名も無き被検体774号+ :2012/07/30(月) 21:07:36.54 ID:e6Xcvivh0
青空は褒められたわけでもないのに
ちょっと嬉しそうな表情になります

「でも相手が仮にお前じゃなかったとしたら、
確かに、驚いて、様子見に入るかもしれない」

「なるほど……。あ、そうだ。くらえくもりぞらさん」
青空はそう言いつつ、僕の顔に水を掛けます
僕も無言で二倍の量を掛け返します

しばらくそれを繰り返した後、噴水を出て服を絞り、
水をぽたぽた滴らせながらベンチに行き、
並んで座って服が乾くのを待ちました

時刻を知らせる鐘が広場に鳴り響きます

服が乾くと、青空はくしゃみとあくびを交互にして、
「それじゃあ、また」と言って帰って行きました

369 :名も無き被検体774号+ :2012/07/31(火) 22:34:33.50 ID:rIGoNaRq0
ひょっとすると、僕はもう、二度と青空に
会うことはないのかもしれないな、と思います

向こうがなりふり構わずに来れば、
僕たちがちょっとやそっと抵抗したところで、
速いか遅いか程度の差にしかならないでしょう

どうせなら部屋を思いっきり汚しておこう、
そう僕は思います
片付ける人の苦労を少しでも増やすために

それから二週間が過ぎます

397 :1 :2012/08/01(水) 10:50:19.65 ID:o8xWRF6G0
その日、喫茶店で本を読んでいると、
自分の名前が呼ばれたような気がしました
もちろん、”くもりぞら”ではない方の

顔を上げると、店員が僕の顔を覗き込んで、
「やっほー」と手を振っていました

同学部の先輩、顔を合わせれば
挨拶はする程度の仲の人です

しばらく、スクリプトに従ったような
様式に忠実な会話を僕らは交わしました

371 :名も無き被検体774号+ :2012/07/31(火) 22:42:27.33 ID:rIGoNaRq0
不自然でない程度の時間が経つと、
先輩に気付かれないよう、そっと店を出ます

この店にくるのはもうやめにしよう、と僕は決めます
結構お気に入りの場所だったのですが、
知人がいるとなると、どうしようもありません

次の店を探さなきゃな、と溜息をついたとき
ふいに僕は体をのっとられました

遅かったじゃないか、と僕は思います

どうくるのかと自身の体の様子を見ていると、
まっすぐどこかへ向かって歩きはじめます

375 :名も無き被検体774号+ :2012/07/31(火) 23:03:09.25 ID:aZOJ4cxH0
さて、どうなるか楽しみだ

372 :名も無き被検体774号+ :2012/07/31(火) 22:48:32.83 ID:rIGoNaRq0
これから味わうであろう痛みを想像しながら、
僕は操作に抵抗して、口を動かします

自分を殺そうとしている相手との
コミュニケーションを試みます

「二分でいいから、話を聞いてくれ」

しかし僕の体は構わず動きつづけます

「あんたにも関係のある話なんだよ」

舌は思い切り攣ったような痛みが走り
唇の端が切れて血が垂れてきます

376 :名も無き被検体774号+ :2012/07/31(火) 23:06:14.80 ID:rIGoNaRq0
「なあ、そもそも、どうして自殺させるべき対象が、
頭にぱっと浮かんでくるんだと思う?」

慎重に言葉を選びながら、僕は言います

「俺はこれまで、六人の標的を自殺させてきた。
たぶん、お前と同じようなやり方で。
だが七人目を殺すことが出来なかった」

「そうして今、お前に命を狙われてる。
以前自分が他人にしていたことを、
今度は他人に自分がされているわけだ」

378 :名も無き被検体774号+ :2012/07/31(火) 23:13:54.91 ID:rIGoNaRq0
「操られる側になって分かったことだが、
『人の体をのっとって操れる人がいる』
ということを前提として知らない限り、
自分が操作されている事実には、
なかなか気付けるものじゃないらしい。

「それくらい自然に感じられるんだ、
体をのっとられて動かされるってことは。
あるいは、起こっていることが不自然すぎて、
事実を受容できないのかもしれない」

「そこまではいい。しかし、ここから俺が言うのは、
証拠はないし、論理が飛躍しているし、
何より自分にとって都合がよすぎる考えだ」

379 :名も無き被検体774号+ :2012/07/31(火) 23:20:40.79 ID:rIGoNaRq0
「でもな、仮にだ。人の体をのっとる俺たちもまた、
実に自然に、体をのっとられているんだとしたら?
俺たちは自分で考えて人を殺しているように感じているが、
実際のところ、操られているだけだったとしたら?」

そこまで言って、僕は限界を悟ります
これ以上喋ることは出来なさそうです

足が止まる様子はありませんでした

380 :名も無き被検体774号+ :2012/07/31(火) 23:26:37.42 ID:rIGoNaRq0
辺りは薄暗くなってきていました
道路には、浴衣を着た小さな子供や
自転車を漕ぐ小学生の男の子たちや
ちょっとお洒落をした中学生のカップルなど
街の祭に向かう人がちらほら見られます

八歳と六歳くらいの兄妹が
互いに虫よけスプレーをかけあって
その匂いが僕のところに流れてきます

少し遠くから笛の音が聞こえてきます
焦げたソースの香りもしてきました

名前を呼ばれた気がしました

381 :名も無き被検体774号+ :2012/07/31(火) 23:36:58.46 ID:rIGoNaRq0
僕の目は動きませんでしたが
視界の隅にブルーのスカートが見えました

「あの後、すぐ仕事が終わったんだよ。
それで、歩いてたら、君の姿を見つけて」
その声で、僕は相手が誰だか知ります

「ねえ」と先輩は言います、
「さっきのって、やっぱり独り言だよね?」

僕は無言で先輩の顔を見つめます
先輩は僕の口元を見て、目を丸くして、
「血、出てる」と口を指差して言います

383 :名も無き被検体774号+ :2012/07/31(火) 23:42:50.71 ID:rIGoNaRq0
僕が何も言おうとしないのを
動揺の証と受け取ったらしい先輩は
なぜか「大丈夫だよ!」と励ましてきます

「私の友達にも、君みたいな子、いたよ。
でもそれはただの一時的な病気で、
別に特別気に病むことじゃないんだよ」

よく分かりませんが、ひとまず、
ある点において手間が省けました

僕は先輩の体をのっとり、言うことを聞かない
自分の体を地面に叩きつけます

柔道で言うところの大内刈を、
先輩の体を使って僕にかけたわけです

384 :名も無き被検体774号+ :2012/07/31(火) 23:50:15.48 ID:rIGoNaRq0
単純な脇固めを極め、僕の動きを奪います
そのまま先輩に喋ってもらうことにします
僕の体は先輩を振り払おうとしますが
その動きは僕自身が抵抗して軽減します

「あんただって、いつかは俺たちみたいに、
どうしても殺したくない相手に出会う。
そして次の瞬間にはあんたが命を狙われるんだ。
そういう繰り返しは、もうやめにしないか?」

そう言った後、続ける言葉を考えて、
しばらくその体勢のままでいると、
いつのまにか僕の体の操作は解けていました

ここまですることはなかったのかもしれません
地面に転んだ時にぶつけた肩が痛み出します

385 :名も無き被検体774号+ :2012/07/31(火) 23:57:02.42 ID:rIGoNaRq0
僕は先輩の操作を解除しますが
先輩はじっと目を瞑ったまま、動こうとしません

何かいって離れてもらおうとしましたが
口がまったく言うことをききません
この分だと食事にまで支障をきたしそうです

もう一度先輩の体をのっとり、僕を解放します

「こんなことするつもりはなかったんだよ」
先輩は青ざめた顔で言います、
「それに、自分でも意味の分からないこと
口走っちゃったり、私、どうしたのかなあ……」

386 :名も無き被検体774号+ :2012/08/01(水) 00:00:47.82 ID:+SmmHLBf0
収束が見えない

387 :名も無き被検体774号+ :2012/08/01(水) 00:02:42.29 ID:DgfHb8Lt0
いいじゃないか
ずっと楽しめるぜ

393 :名も無き被検体774号+ :2012/08/01(水) 00:38:08.64 ID:B/UX+8cL0
ところで先輩って急に出てきた?

394 :名も無き被検体774号+ :2012/08/01(水) 01:31:33.21 ID:tvkEufMn0
先輩ちょっと急だったな

473 :名も無き被検体774号+ :2012/08/04(土) 21:07:42.00 ID:Axa50L7/0
「ねえ、怪我してない? 大丈夫?」
先輩がそう聞いてきます

口をきくことのできない僕は、頷いて
「大丈夫」という意志を示そうとしましたが、
先輩は僕が声を出せないのを
ショックのせいだと思い込んだようです
泣きそうな顔で謝り続けて来ます

少し気の毒に感じましたが
説明の仕様がないし面倒なので
僕は先輩の体を硬直させると
その場を逃げ出しました

476 :名も無き被検体774号+ :2012/08/04(土) 21:16:15.55 ID:Axa50L7/0
祭に向かう人の流れに逆らって
重たい体を引きずって僕は家に帰りました

アパートに着き、自室の鍵を開け中に入ると、
服も脱がずにベッドに体を投げ出します

部屋は蒸し暑く、体は痛みます
扇風機をつける元気さえありません
ひどく喉が渇いていましたが
体を起こして水を汲みに行くのさえ億劫でした

いろいろと面倒だなあ、と僕は思います
「ここがくもりぞらさんの家ですか」と青空が言います

477 :名も無き被検体774号+ :2012/08/04(土) 21:27:37.30 ID:Axa50L7/0
僕は起き上がって声のした台所の方を見ました
冷蔵庫の照明に照らされた青空の顔が目に入ります
青空はハイボールの缶を勝手に取りだして
プルタブを引いてごくごく飲んでいます

缶から口を離すと、青空は「おいしいー」と笑います
僕は安心して再びベッドに横になります

478 :名も無き被検体774号+ :2012/08/04(土) 21:36:06.45 ID:Axa50L7/0
「お久しぶりです、くもりぞらさん――っていう台詞は、
本来もう少し前に言うべきだったんですが、
なんだか私に気付いてないみたいだったんで、
ここぞとばかりに尾行させてもらいました」

僕は何か言おうとしますが、上手く喋れません
青空はロング缶をひとつ空にすると、
「反撃開始ー!」と言って部屋に入ってきます
顔はうっすら赤く、酔っ払っている様子です

479 :名も無き被検体774号+ :2012/08/04(土) 21:43:10.38 ID:Axa50L7/0
僕に動く気力がないのを知ってのことか
あるいは単に酔っ払っているからか
青空は人の部屋を漁りはじめます

煙草のカートンを見つけると、青空は
「お酒を捨てられた仕返しです」と言って
ゴミ袋に放り込みます

CDや本も、ほとんど捨てられます
青空なりの基準が存在しているらしく
青空はときどき「これはよし」と言って
一部のものは、棚に戻されます

481 :名も無き被検体774号+ :2012/08/04(土) 21:50:16.00 ID:Axa50L7/0
僕は青空に手招きして、身振り手振りで
コップに水を汲んでくるよう頼みました

青空は台所でコップに冷たい水を注ぐと
「ほーら水ですよー」と言いながらやってきて
ベッドに寝る僕の顔に1mくらい上から垂らします

僕は口を開けてどうにか水を飲みます
顔もベッドもびしょ濡れになりますが
少しでも水を飲めたことを僕は喜びます

482 :名も無き被検体774号+ :2012/08/04(土) 22:00:45.39 ID:Axa50L7/0
「くもりぞらさん、今日は一段と元気ないですね」
ベッドに腰掛けた青空は、空き缶で僕の頭を
こつこつ叩きながら言います、「でも私は元気です」

僕は「後で見てろよ」という目線を送ります

「出て行ってもらいたそうな顔してますね」
青空は楽しそうに言います
「だから出て行ってあげません。あはは。
――それにしても、くもりぞらさん、
さっきから喋りませんね。動きませんし。
疲れてるんですか? なんかありました?」

僕が何も答えないのを見て、
「ん、まあいいや」と青空は言います
「とにかく、千載一遇のチャンスですね」

483 :sage :2012/08/04(土) 22:02:36.41 ID:FCIETdtc0
何が始まるんです?

484 :名も無き被検体774号+ :2012/08/04(土) 22:11:02.28 ID:Axa50L7/0
青空は僕の体を無理やり起こすと、
後ろに回って僕の首に右腕を巻き付けました

「前のやつの仕返しです」と青空は言います

以前触れたときの青空の首は冷たかったのですが
今日の青空の腕はあったかいです
あるいは僕の体が冷えているのかもしれません

「私、酔っ払いですから」、青空は僕の耳元で言います
「酔っ払いですから、これから変なこと言いますけど、
それは酔っ払いだからです。気にしないでください」

485 :名も無き被検体774号+ :2012/08/04(土) 22:20:13.30 ID:Axa50L7/0
「なんで最近、いやがらせしてくれないんですか?」

青空は腕の力を緩めると、そのまま
腕を下げて、僕の胸の辺りで交差させます

「どうして体のっとってくれないんですか?
どうしてひとりになりたがってる私を
くもりぞらさんは野放しにしておくんですか?」

青空の人差し指が僕の胸をとんとん叩きます

486 :名も無き被検体774号+ :2012/08/04(土) 22:27:27.47 ID:Axa50L7/0
「ちょっとさみしいじゃないですか。
さみしいのが、私は好きなんですよ。
だからそれを阻止してくださいよ。
そういうのがくもりぞらさんの役目でしょう?

青空の人差し指の動きが止まります

「それに私は、死期が近いからって慌てずに、
いつも通り過ごして死にたいと思ってるんです。
だから、それさえも邪魔してくださいよ。
なんで言わないとわからないんですか?」

487 :名も無き被検体774号+ :2012/08/04(土) 22:37:17.89 ID:Axa50L7/0
青空の両手首を僕が両手でつかむと
「あ、動いた」と青空は嬉しそうに言います

酔っ払いの言うことは、話半分に聞くのが正解です
ですが、青空は「気にしないで」いてほしいらしく
そうなると僕としては、気にせざるを得ないのです
そういうのが、僕の役目らしいですから

488 :名も無き被検体774号+ :2012/08/04(土) 22:44:24.19 ID:Axa50L7/0
僕は青空の手を離して、振り返って青空と向かい合い、
まず、いま喋れないのだということを説明しようと思い、
自身の口を指差した後、両人差し指で「×」を作りました

すると、青空は何を勘違いしたのか
「だめって言われるとしたくなります」と言って
僕が指差したところに自分の唇を重ねてきました

その後、僕は苦労して携帯に文章を打ち込んで
さきほどあったことを説明したのですが
青空は「はい」「はい」と半目で頷き続けた挙句
人のベッドですうすう寝息を立てて寝てしまいました