人を自殺させるだけの簡単なお仕事です

64 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 00:00:26.11 ID:Ngo8f8dj0
暑くて目が覚めました
車内には容赦なく朝の光が差し込んでいます

左に目をやると、女の子が眠っていました
僕はドアを開けて外に出て
展望台の下にある水道で顔を洗いました

体もずいぶん汗でベタついていたので
車に戻ってタオルを取りに行くと
ちょうど標的が目を覚ましたところでした
眠そうな目でこちらを見ていました

66 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 00:14:32.34 ID:dXNG+K4x0
二人で並んで体の汗を濡れタオルで拭きとりながら
さてどこから説明したものか、と考えました

乾いた風がひんやりと心地よいです
標的は靴下まで脱いで足を洗っています

普通なら標的の方から何か聞いてきそうな物ですが
この女の子はさっきから、何一つ訊ねてこないのです

参ったな、と考えているその時でした

「綺麗になったことだし、どうぞ」

突然、標的はそう言うと、”気をつけ”の姿勢をとり、
僕の顔をまっすぐ見据えました

69 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 00:27:38.04 ID:dXNG+K4x0
標的は両腕を広げて掌をこちらに向け、言いました
「落とすなり、吊るすなり、好きにしてください」

前髪から水滴がぽたぽた落ちて
濡れた手足がきらきら光っています

やっぱり気に入らないな、と僕は思います
「そのうち殺すさ、とてもひどいやり方で」

「とてもひどいやり方ですか」
標的は間抜け面で繰り返します

「ああ。だから、まず車に乗れ」

標的は靴を履き、車の方へ歩いて行きます

70 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 00:39:27.04 ID:dXNG+K4x0
しっかりした朝食をとらせると
僕は標的を高校まで送り届けました

少しでも教室への滞在時間を減らしたくて
遅刻寸前に学校に来る主義の標的としては
むしろいつもより早く登校したことになります

車を降りると、標的はこちらを振り返り、
小さく頭を下げ、歩いて行きました
呑気なものです

71 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 00:48:50.28 ID:dXNG+K4x0
こちらも一限の講義があるのですが
その前にひとつ、やっておくことがあります

目を閉じて、標的の顔を思い浮かべます
彼女はちょうど教室に入るところでした

標的は、なるべく目立たぬように、
静かにドアを開けて中に入ります

それでもドアの近くにいた連中は、
誰が来たのかを確認しようと目を向けます

そのとき、標的の表情がぱっと明るくなり、
口からは「おはよう」と朝の挨拶が出てきます
もちろん僕の仕業です

72 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 00:58:30.92 ID:dXNG+K4x0
周りの連中は誰も挨拶には応えません
それは勿論、誰も、彼女が挨拶してくるなどとは
想像さえしていないからです
聞き間違えだろう、くらいにしか思っていません

標的の顔が真っ赤に染まります
恥ずかしくて仕方がないのでしょう
死ぬのは平気でも、挨拶を無視されるのは嫌なのです

75 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 01:13:08.03 ID:dXNG+K4x0
ですがその後も、標的が廊下で
クラスメイトと擦れ違うたびに
僕は標的に感じ良く頭を下げさせました

標的はノートに「かんべんしてください」と
書いて僕に見せようとしていましたが
僕は何の反応もしてやりませんでした

76 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 01:20:59.42 ID:dXNG+K4x0
昼休みになると、標的はカロリーメイトを口に放り込み
イヤホンを耳にさして勉強を始めようとしたので
僕は体をのっとってイヤホンを引っこ抜きました

イヤホンなんてつけていたら、初めから周りとの
コミュニケーションを諦めている人みたいに見えるからです

標的はノートに「よけいなお世話です」と書きました

僕は標的の手を借りて、その文に取り消し線を引きます
そしてのその下に、「いやがらせ」と書いておきました

それを見た標的は、「ひどい」とだけ書き込みます

77 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 01:33:45.95 ID:dXNG+K4x0
授業がすべて終わると、標的は誰よりも早く教室を出ます
いつもはさり気なく一番目に帰宅する標的ですが、
この日はなりふり構わず急いで出て行きます

これ以上僕に何かされたら敵わないと思ったのでしょう
しかし、帰宅後、彼女に更なる悲劇が訪れます
もちろん実行犯は僕なのですが

標的の体をのっとった僕は、再び身辺整理を始めました

78 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 01:41:56.58 ID:dXNG+K4x0
一番下の引き出しにしまわれた、
カティサーク、ジョニーウォーカー赤、
エンシェントクランといったウィスキー

どこで手に入れたかは知りませんが
おそらく彼女の一番のお友達であるそれらを
僕はすべて洗面台に開けて流してしまいます

標的の口が「やめっ、もったいない」と動こうとします
今までで一番必死な反応だったかもしれません
ですが、知ったことではありません

79 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 01:51:48.67 ID:dXNG+K4x0
さて、彼女のスケジュールによれば、
ベッドに横になって音楽を聴きはじめる頃合でしたが、
僕は酒瓶をビニール袋に入れて引き出しに戻すと、
そのまま彼女を家の外に出しました

ただし、今回は八時間ぶっ通しで歩かせたりはしません
十分ほど歩いたところで、目的地の公園に着きます

二台あるブランコの片方に、彼女を座らせます
当然、もう一台のブランコには、僕が座っていました

80 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 02:01:24.80 ID:dXNG+K4x0
辺りは薄暗く、日暮が近くで鳴いています
僕は両手に抱えていた植木鉢を標的に渡します
標的は「なんですかこれ」と聞いてきます

「アグラオネマニティドゥムカーティシー」と僕は答えます

「いえ、品種のことじゃなくて。なんですかこれ」

「部屋が殺風景すぎるからな。観葉植物だ」

「……これも、いやがらせなんですか?」

「プレゼントに見えるか?」

86 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 07:37:45.67 ID:+LAtZHRNO
アグラオネマニティドゥムカーティシー
よし覚えた

87 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 08:58:45.64 ID:UAFggopkO
アグラオネマニt・・・覚えられない

81 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 02:14:45.36 ID:dXNG+K4x0
標的は植木鉢を掲げて、眺めます
「見えなくもないですね、綺麗ですし」

「そういうところが、気にくわないんだ」
ブランコから下りて、僕は標的の前に立ちます

標的は植木鉢を膝の上に抱えたまま
少し緊張した表情で僕の顔を見ます

しばらくその状態が続くと
ふいに標的は植木鉢を足元にやさしく置いて
「殺しますか?」と言ってブランコをこぎはじめました

82 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 02:27:02.63 ID:dXNG+K4x0
僕はあらためて聞いてみます
「結局お前は、殺されたがってるのか?」

「んー、殺した方がいいですよ」と標的は答えます
「初めてでもないんでしょう? 私で何人目ですか?」

僕はしばらくこう考えてから、こう言います
「どこまで知ってるんだ?」

標的はブランコをとめ、植木鉢に目をやり、
僕と目は合わせずに、こう言いました

「知ってるも何も、今あなたがしてるのは、
むかし私がしてたこと、そのままなんですよ」

90 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 09:58:09.71 ID:dXNG+K4x0
「八人、自殺させました。標的は十九歳から七十二歳まで。
男が六人、女が二人。四人は飛び降りで処理しました。
ロープが三人で、あとの一人はカミソリです」

「あなたもそうだと思うんですが、ある日突然、
人の体をのっとれるようになって、同時に、
自分が何をしなければならないのかが分かりました」

「最初の一人の他は、上手いことやれたと思います。
この仕事の良いところは、一人自殺させるたびに、
自分も死んで、生まれ変わったような気分になれることでした」

91 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 10:12:55.58 ID:dXNG+K4x0
「あなたは、どうして自分がその能力を
持つようになったのか、分かりますか?」

僕は首をふりました

「これはあくまで私の予想に過ぎませんが、
あなたにバトンが受け継がれたのは、
おそらく、私が人を殺すのをやめたせいです。

九人目で、私はありがちなミスを犯しました。
同情してしまったんです、標的に対して」

92 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 10:27:32.93 ID:dXNG+K4x0
「とたんに私の能力は失われました。
その後で、私が逃した標的は、自殺しました
たぶん、私の代わりに、後任が現れたんでしょうね。
私はもう使えないって判断されたんでしょう」

標的が顔を上げて聞いてきます
「あなたが初めて殺したのって、二十代の女性でしょう?
茶髪でセミロング、背は高め、指が綺麗な女の人」

僕が黙っているのを、標的は肯定と受け取ったようでした

93 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 10:43:22.27 ID:dXNG+K4x0
「あの人のこと、私、殺せなかったんですよ。
だって、あの人、笑っちゃいますよね、ああ見えて、
写真とお喋りするのが一番の娯楽なんですよ。

理由はわからないけど、そういうのって、
すごくげんなりさせられるじゃないですか」

「あの人を見逃してからしばらくして、
私は人の体をのっとる力を失いました。
更にしばらくして、今度は、体をのっとられたんです」

標的は僕を指差して言います、「あなたに」

97 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 12:27:44.04 ID:3lKQNl8q0
小説苦手やけど読んでしまう

100 :名も無き被検体774号+ :2012/07/24(火) 13:34:01.76 ID:nqS2gb950
これひょっとしてすごくね

140 :名も無き被検体774号+ :2012/07/25(水) 22:32:16.29 ID:5B7gcMQa0
「いわゆる”用済み”ってやつなんでしょうね。
前任者は後任者に消されるシステムなんでしょう」

「私が自殺させた人の中にも、ひょっとすると、
以前は私と同じようなことをしていた人がいたのかもしれません」

「だから」、標的は笑って言います
「殺しちゃった方が、話は早いでしょう?
そうしないと、次はあなたも狙われますしね」

146 :名も無き被検体774号+ :2012/07/25(水) 22:54:35.86 ID:5B7gcMQa0
答える代わりに、僕はまたこの質問を口にしました
「結局お前は、殺されたがってるのか?」

「そうするのが、一番なんだと思います」

「”お前”が、殺されたがってるのか?」

「私、ですか。……そうですね、死ぬのは怖いです、
でもそれ以上に、死んだ方が楽だろうなあと思ってます。
うん、そうですね。たぶん私は殺されたいんです」

148 :名も無き被検体774号+ :2012/07/25(水) 23:09:57.92 ID:5B7gcMQa0
「なら話は早い」と僕は言います、
「楽になる手伝いなんてごめんだね。
俺は、お前には、『今死ぬわけにはいかない』
って悔しがりながら死んで欲しいんだ」

標的は無表情に僕を見つめます
「その前にあなたが死ぬと思いますよ」

「いいさ。死んだ方が楽だろうと思うしな」

「……まねしないでください」

「アグラオネマは直射日光に弱い」

「はい?」首を傾げつつ、標的は植木鉢に目をやります

150 :名も無き被検体774号+ :2012/07/25(水) 23:19:11.23 ID:5B7gcMQa0
「しかし、明るい場所で育てる必要はある。
変な表現だが、『明るい日陰』におくといい」

「……あの、私、もうすぐ死ぬんですよ?
あなたが殺さなくても、別の誰かが殺しますし」

「高温多湿を好むから、暖かい場所に置いて、
一日一回は霧吹きで葉に水をかけてやれ。
水も、やりすぎない程度にたっぷりな」

「育てませんってば」

「ついでに言うと、高価な植物だ。
あの手のウイスキーが十本くらい買える」

「ええっ」標的の体がこわばります
頭の中は酒瓶でいっぱいなのでしょう

152 :名も無き被検体774号+ :2012/07/25(水) 23:29:49.73 ID:5B7gcMQa0
「枯らしてしまったときは、お前の体を乗っ取って、
クラスメイトに『友達になってください』って言って回る」

「そういうのはほんとにやめてください。
アグラ……ムドゥ……なんでしたっけ?」

「カーティシーでいい。覚えろ」

「かーてぃしー」

「そうだ」

「あおぞらです」

「……ん?」僕は星空を見上げます

「私の名前です。覚えてください」

「ああ、名前か。知ってるよ」

「くもりぞらではないです」

「青空だろ。確かに似合わない名前だよ」

153 :名も無き被検体774号+ :2012/07/25(水) 23:46:05.16 ID:5B7gcMQa0
「それで、あなたの名前は?」

「くもりぞらだ」と僕は言います

「まねしないでくださいってば」

「本当だよ。すばらしい偶然だな」

「ふうん。似合う名前で良かったですね」
青空は拗ねたような顔をして言います
「……それで、私はこれ、カーティシーを、
このまま持って帰るんですか?」

「そりゃあそうだ」

「恥ずかしいなあ」

「恥ずかしい思いは、これから沢山してもらう」

「今日のだけで死にそうなんですけどね」

「人はそう簡単には死なない」

「あなたが言うと説得力がありますね」

185 :名も無き被検体774号+ :2012/07/27(金) 00:07:31.37 ID:H0TWczxL0
「さて、そろそろ解散といくか」
青空の顔を見つめながら、僕は言います
「なんだかお前、いきいきしてきたからな」

青空は痛いところをつかれて
慌てて緩んでいた表情を引き締め
「別に、そんな」と言いながら顔を赤くします

”実は人と話すのが好き”などと思われるのは
青空のような者にとっては最も苦痛なことなのです

189 :名も無き被検体774号+ :2012/07/27(金) 00:29:14.69 ID:H0TWczxL0
「さようなら、くもりぞらさん」
青空は公園を出て行きました
逃げるように早足で出て行ったので
公園の前にいた人に気づきませんでした

青空のクラスメイトの男は
公園から出てきた青空を見たあと
その手に抱えられた植木鉢を見て
見てはいけないものを見たように目を逸らしました

すかさず僕は青空の体をのっとります
感じの良い笑顔で「こんばんは」と言います
相手の男は、とても困った顔をしましたが
「ちわっす」と頭を軽く下げました